The Greatest Show on Earth

9月にイギリスで出たリチャード・ドーキンスの新著” The Greatest Show on Earth”の第一章からの抜粋。TIME ONLINEに掲載されたもの。
+-+-+-
あなたが古代世界への情熱を伝えたいと願っているローマ史とラテン語の教師だと想像してみてほしい。オウィディウスの哀歌やホラティウスの頌歌、キケロの雄弁さで示されたラテン文法の力強い秩序、ポエニ戦争の戦略の精緻さ、ユリウス・カエサルの手腕、そして後の皇帝の享楽的な豪奢を。それはたいへんな仕事だし、時間、集中と献身を必要とする。

そのうちあなたの貴重な時間が無学な人(ignoramuses:ラテン学者としてignoramiと言わないだけの分別があるでしょう)の一団のわめき立てによってしきりに奪われ、クラスの注意がそらされることにあなたは気づく。彼らは強力な政治的支援、そして特に財政支援を受けて、あなたの生徒をローマがまったく存在しなかったと飽くことなく説き伏せようとする。ローマ帝国は存在しなかった。世界は丸ごと現在の記憶を持ったまま作られた。スペイン語、イタリア語、フランス語、ポルトガル語、カタロニア語、オック語、ロマンシュ語:これらの言語とその方言は突然期せずしてそれぞれ切り離された存在となり、ラテン語のような前身と何の関連もなくなる。

あなたはすべての関心をすばらしい古典研究と教育の仕事に捧げる代わりに、ローマ人は存在したという主題を守るために時間とエネルギーを注ぐよう強いられる:そんなことと闘うのにそんなにも忙しくなければとあなたに涙を流させるような、無知の偏見の博覧会からの防衛に。

このラテン教師の空想があまりにあり得ないと思うなら、もっと現実的な例がここにある。より近代の歴史の教師だと想像してほしい。組織だった、資金豊富な、強力なホロコースト否定論の政治グループによって、あなたの20世紀ヨーロッパの授業がボイコットされたり妨害されたり混乱させられたりするところを。架空のローマ否定論と違いホロコースト否定論者は実際に存在する。彼らは声高で、表面上はもっともらしく、問題に精通していると見せかけるのに長けている。彼らは少なくとも一つの強力な現代の国家の大統領によって支持されているし、その中にはローマカトリック教会の聖職者の一人も含まれている。想像してみてほしい。ヨーロッパ史の教師として「論争を教えろ」という挑発的な要求に絶えず直面することを。それからホロコーストは存在せず、それはシオニストのでっち上げ屋によって作られたという「代替理論」に「平等な時間」を与えるよう要求されることを。

ファッショナブルな相対主義の知識人は絶対の真実はないという主張に相づちを打つ:ホロコーストが起きたかどうかは個人の信念の問題だ。すべての見解は等しく妥当で、等しく「尊重」されなければならない。多くの科学教師の立場は今日、いっそう悲惨だ。彼らが生物学の中心的でガイドとなる原理を教えようとするとき、率直に歴史的な文脈の中に生命界を置こうとするとき--それはつまり進化だが--、彼らが生命の性質そのものを調査し説明するとき、彼らは悩まされ、妨害され、煩わされ、脅しつけられ、仕事を失う恐れさえある。少なくとも彼らの時間はことあるごとに無駄になる。親からの脅迫的な手紙を受け取り、教化された子供たちのあざけりの薄笑いと腕組みに耐えることになる。彼らは「進化」という語を組織的に消されたか、「時間をかけた変化」を削除された州公認の教科書を配られる。かつて我々はこの種の出来事を奇妙なアメリカ的現象だと笑いそうになった。

イギリスとヨーロッパの教師は今、同じ問題に立ち向かっている。部分的にはアメリカの影響のため、しかしかなりの部分は教室で伸張するイスラム教のために--「文化多元主義」への公的なコミットメントと、人種主義者と考えられることへの恐れによってそそのかされて。

しばしば、正しくも、高位の聖職者と神学者は進化を問題と見なしておらずこの問題に関して積極的に科学者を支援すると言われる。これは多くの場合真実だ。私もオックスフォード司教で現在のハリス卿との二度の喜ばしい協力の経験によって知っている。2004年に私たちはサンデー・タイムスに共著記事を書いた。その結語はこのようなものだった:「今日では議論は何もない。進化は事実であり、キリスト教徒の視点からは神の偉大な行いの一つである。」最後の文章はリチャード・ハリスによって書かれたが、私たちは残りのすべての部分に同意した。2年前にはハリス司教と私は首相、トニー・ブレアに共同で手紙を書いた。

[手紙では著名な科学者と7人の司教を含む聖職者がエマニュエルシティ・テクノロジーカレッジにおける進化の教育への懸念と「信仰の位置」に対して警報を表明した] ハリス司教と私は急いでこの手紙を組織した。覚えている限り手紙の署名者は私たちのアプローチに100%同意した。意見の不一致は科学者からも聖職者からもなかった。カンタベリー大司教は進化を問題と見なしていなかったし、法王も(古人類学上の転機に人間の魂が注入されたという怪しいぐらつきを加えたが)、教育ある聖職者と神学教授もそうだ。

The Greatest Show on Earthは進化が事実であることの議論の余地のない証拠にかんする本だ。それは反宗教を意図した本ではない。私はすでにそれを[”神は妄想である”で]した。これは別のTシャツで、もう一度元のTシャツを着る場所ではない[it’s another T-shirt, this is not the place to wear it again.]。

進化の証拠に注意を払った聖職者と神学者は反対をあきらめた。一部はしぶしぶに、リチャード・ハリスのような一部は熱心に、しかし不幸な無学な者以外のすべての人は進化の事実を受け入れるよう要求された。彼らは神がプロセスの始まりに腕をふるったと考えるかもしれないが、おそらくそれからのプロセスの進展には関与しなかった。彼らはたぶん神が最初に宇宙のクランクを回し始めたと考えるだろう。そして最終的に我々が役割を果たすことになるちょっとした深遠な目的のために、調和した自然法則と物理定数の一揃えによって誕生の儀式を挙げたと考えるだろう。

しかし場合によっては不承不承に、そのほかは喜んで、思慮深く理性的な聖職者と女性は進化の証拠を受け入れる。我々がしてはならないことは悦に入ってそれを当然だと思うことだ。司教と教養ある聖職者がそれを受け入れるから、会衆もまねるのだから。

ああ、ほんとうに世論調査にはたくさんの反対の証拠がある。40パーセント以上のアメリカ人は人が他の動物から進化したことを否定し、そして我々が--それに他のすべての生命も--1万年以内に神によって作られたと考えている。この割合は英国ではまだそれほど高くないが、それでも気がかりになるほどには大きい。それは科学者の懸念と同じくらい教会にとっても問題であるはずだ。

この本は必要だ。進化を否定する人のことを、「歴史否定者」と呼んでいる。彼らは世界の年齢が数十億年ではなく数千年だと信じ、人は恐竜と歩いたと信じている。繰り返すが、彼らはアメリカの人口の40パーセント以上を構成している。この数字はいくつかの国ではより高く、他ではより低いが、40%はちょうどいい平均だろう。私は時々歴史否定者を40パーセンターと呼ぶ。

聡明な聖職者と神学者に戻ると、彼らが遺憾に感じている反科学的ナンセンスとの戦いにもう少し力をつぎ込んだらすばらしいのだが。進化は事実でありアダムとイブは存在しなかったと認める一方で、あまりに多くの伝道師が軽率に説教壇に立ち、道徳やアダムとイブの神学上の見解を演説する。もちろんアダムとイブが実際には存在していなかったと一度でも言うことはない!

もし不服を申し立てれば、彼らは純粋に「原罪」や無垢の価値[virtues of innocence]に関する「シンボリックな」意味だったのだと抗弁する。もちろん言葉を文字通り受け取るほど愚かではない、と見下したように付け加えるかもしれない。しかし聴衆はそれを知っているだろうか?会衆席にいる人や、祈りのマットに座っている人は、聖書のどの断片が文字通りで、どこがシンボリックだと考えるのだろうか?教育を受けていない信者が理解できるほどそれは簡単なのだろうか?かなりの場合答えは明らかにノーだ。混乱が生じるのも無理はない。

司教の皆さん、それについて考えてみてほしい。牧師殿、慎重になってほしい。あなたがたはダイナマイトで遊んでいるのだ。爆発するのを待っている誤解をもてあそんでいるのだ。もし対処しなければ起きるべくして起きるとさえ言えるかもしれない。公衆の面前で話すとき、是は是と、非は非となすように大きな注意を払うべきではないのか?罪に陥らぬため、すでにとても広く好まれている誤解に立ち向かい科学者と科学教師に熱心で積極的な支持を与えるべきではないのか?歴史否定者は私が捕まえようとしているうちの一人だ。しかし、多分より重要なことに、私は歴史否定論者ではなくて、少しは理解している人や議論をするのに十分な準備ができていない人を武装させることを望んでいる。

進化は事実だ。筋の通った疑問を越えて、深刻な疑問を越えて、情報に基づく健全な知性的な疑問を越えて、疑う余地無く、進化は事実だ。進化の証拠は少なくともホロコーストの証拠と同じくらい(ホロコーストには目撃者がいることを考慮してさえも)強力だ。我々がチンパンジーのいとこであり、サルとは若干遠いいとこであり、ツチブタやマナティーとはもう少し遠いいとこで、バナナや蕪はさらにもう少し遠いいとこで、それから…というのは明白な事実だ。
これは事実である必要はなかった。それは自明的な、トートロジー的な、あるいは言うまでもないような真実ではなかった。そして大部分の人が、教育を受けた人たちさえも、事実ではないと考えたときさえあった。進化は事実である必要はなかった、しかしそれは事実だ。進化を支持する証拠があふれ出ているから私たちはそう知っている。進化は事実で、私の本はそれを例示している。標準的な科学者でそれを否定する者はいないし、公平な読者はそれを疑う本を閉じはしないだろう[no unbiased reader will close the book doubting it.]。

なぜ、それなら私たちは「ダーウィンの進化論」について話すのか。「理論」を譲歩[concession]だと考える創造論者--歴史否定者や40パーセンター--のそれらの信念に偽りの安心を与えて、贈り物や勝利を手渡してしまうのか?進化は地動説と同じ意味で、理論である。どちらの場合も「単なる理論」というように「単なる」が使われなければならない。進化が「立証されていない」という主張に対しては、証明とは科学者が疑いの目で[仮説を]見るよう強いられること指す概念だと答えよう。著名な哲学者は科学ではどんなものも証明されないと私たちに言う。

数学者は証明することができる--ある厳しい見解によれば、数学者はそれができる唯一の人々だ--が、科学者ができる最高のことは、どれだけ懸命に反証しようと試みたかを示すことだけだ。月が太陽より小さいという議論の余地のない理論さえ、ある種の哲学者の満足感にとってみれば、ピタゴラスの定理が証明されるのと同じやり方で証明することができない。しかしそれを支持する証拠の膨大な蓄積は、それを「事実」だと認めないのは衒学者以外であればおかしいと感じるほど強力だ。同じことは進化にも言える。進化はパリが北半球にあるのと同じ意味で事実だ。

詭弁家[logic-choppers]が街を支配しているけれど、いくつかの理論は理にかなった疑問を乗り越えており、我々はそれを事実と呼ぶ。とても精力的に、徹底的に、あなたは理論を反証しようとする。その攻撃に耐えきったなら、常識的に適切に事実と呼ばれる状態にその理論は近づく。

我々は犯罪が起きたあと現場に登場する刑事のようなものだ。殺人犯の行動は過去の彼方に消えている。刑事には自分の目で犯行を目撃できる望みはない。刑事が持っているのは残された痕跡だけだ。だがそこには多くの真実がある。足跡、指紋(最近ではDNAフィンガープリントもある)、血痕、手紙、日記があるのだ。[The world is the way the world should be if this and this history, but not that and that history, led up to the present.]

進化は避けようがない事実だ。我々はその驚くべき力と単純さ、美しさを賛美すべきだろう。進化は我々の中にあり、我々の周りにあり、我々の間にあり、そして永劫の岩の中に刻み込まれている。ほとんどの場合我々は眼前で起きている進化を観察できるほど長生きしないのだから、事件の後に犯罪の現場にやってきて推理を働かせる刑事の喩えを再訪することになろう。科学者を進化の事実へ導く推論の助けは、あらゆる時代、あらゆる法廷でこれまでに使われ犯罪を立証したどんな目撃証言よりもかなり豊富で、かなり説得的で、ほとんど反論の余地がない。理にかなった疑問を越えた証明?理にかなった疑問?それは史上もっとも控えめな表現だ。

-+-+-+-
一月くらいかけてチビチビ読んでいたがもういいや、飛ばした部分があるが出してしまおう。現物は400ページあって思ったより遙かに分厚かった。興味のある部分だけ斜め読みした感じでは、創造論批判(宗教一般の批判ではない)があちこちに出てくる。リチャード・フォーティは「ターゲットを外している」と書評していたが…。

この本に関連して翻訳されたインタビュー記事など
SEED誌によるインタビュー by optical frogさん
Macleans.caによるインタビュー by Kumicitさん
9/24 公開日が違っていたので変更、翻訳へのリンクを追加

広告

コメント / トラックバック1件

  1. […] The Greatest Show on Earth « Nikki no ki hwmh.wordpress.com/2009/09/01/the-greatest-show-on-earth – view page – cached 。これは別のTシャツで、もう一度元のTシャツを着る場所ではない[it’s another T-shirt, this is not the place to wear it again.]。 — From the page […]

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中